直販農家は「売る」から「伝える」へ|直販農家のためのFun×Fanマーケティング講座⑦

  皆様、こんにちは。大平恭子です。

 

 「直販農家のための、Fun×Fanマーケティング講座」は、今までの実践や講演セミナー内容、指導アドバイス事例を、大平流に連載ブログ形式でお届けするものです(これまでの記事はこちら)。本編の7回目のテーマは、「直販農家は「売る」から「伝える」へ」です。今回から、経営の考え方や自身のあり方を基に、実際の行動に移していくための実践的な内容になります。 


 VOL1で、直販農家のことを、「生活者と直接繋がり販売する農家」と定義づけました。また、その視点は、どのように「売るか」という「販売志向」ではなく、買い手(潜在的な顧客)にとって魅力的なコトを生み出し、それに共感する人を増やし、関係性を深めていく「顧客志向」が大事、というお話をしました。 


 「では、具体的にどういうことなのか?」を、私の大切な友人でもある和歌山県奥みなべの梅農家・二葉美智子さんの事例からお話したいと思います。


 

◆園地は農業世界遺産登録の、和歌山県奥みなべ「受領の里」。 


  和歌山県みなべ町は、南高梅発祥の地であり、一大産地として名高いエリア。そのみなべ町と田辺市の間にある山間の「受領」と呼ばれるところに二葉さんの園地があります。ここは、里山で400年にわたり続けられている梅の生産システムや生物との共生、文化性・社会性から「世界農業遺産」に登録されたところ。画像のように、急こう配の山一帯が梅林であり、ここが二葉さんの仕事場でもあります。


 

◆一貫したメッセージは、梅干しは「健康食材」であるということ。 


 二葉さんは、全国的にも高品質で知られる南高梅を原材料にした梅干しを「みっちゃんの梅」として、自ら加工・販売しています。彼女の一貫したメッセージは、梅干しは「健康食材」であるということ。このことは、一般的にもよく言われて知れ渡っていることなのですが、彼女はそれを一般論に終わらせず、例えば、「授乳時に1日1個梅干しを食べることで、母乳の出がよくなった」、「そういった母体から生まれてきた子供は病気への耐性があり、小児科医から、「内臓が丈夫と褒められた」等、自分や家族の実体験を通じて、説得力を持って伝えています。


 ここ最近の減塩ブームで、市販の梅干しは、「塩分控えめ」を打ち出していますが、その保存性や味の整合性は、添加物等化学のチカラによるもの。それに対し、「みっちゃんの梅」は、「塩のみ20%」で漬けて天日干しをするという、昔ながらの製法にこだわっています。


 どうして20%にこだわるのかと聞いたところ、「梅干しがふっくらと浸かり、酸味と塩味のバランスがよく、保存性にも優れ、これが一番」との答えが返ってきました。日本人が昔から培い、伝わってきた製法技術を踏まえ、シンプルに仕上げることが、おいしさと人の健康に直結するといったところでしょうか。 


  また、みっちゃんお勧めの「梅肉をまぶすだけでできる鳥のから揚げ」は、梅の酵素と塩のミネラルの力で、うま味たっぷりジューシーなご馳走へ。イベント時やメディアでご披露するたびに話題になる一品です。「塩分が苦手な方」には、漬けた梅干しの塩分の薄め方を、暑い日にはペットボトルに水と梅干し1個を入れ、「熱中症対策」を発信するなど、日常の生活の中で、梅にまつわる食べ方や調味料としての用途提案、そして効用をうまく伝えています。


   <イベントで提供された、梅農家がつくる梅づくしランチ>



◆農家の「伝える」は農産物の先にある食卓や笑顔を耕すこと 


  「売る」という意識だけだったら、「手間ひまかけた高品質な梅ですよ」、「農家の手作りですよ」というメッセージが主になるでしょう。そこに、「なぜ塩だけでつくるのか」から、健康食材であり、便利な調味料としての用途を提案すること、それを「伝える」。さらに、それが共感とともに「伝わる」ことで、独自の「みっちゃんワールド」が広がっています。 


  今回の事例は特異なものではなく、皆様お一人お一人の中に可能性として広がっています。まずは、自身の体験や大切にしていることを、自分が作っている農作物や農産加工品と関連付けて、物語仕立てに考え、自分の言葉で伝えてみましょう。単に農作物を作るのが「農家」ではなく、その先のおいしい食卓や笑顔、さらには幸せを耕すことも「農家」だからできる楽しみであり、醍醐味ではないでしょうか。 


 今回の内容が、皆様の気づきや具体的な行動に繋がりましたら、幸いです。


※みっちゃんの梅 

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【プロフィール】
ブランドストーリー 代表 大平恭子 

 食農連携の分野で「売り方・食べ方で人と地域を活性」をミッションに、付加価値化と魅力増大を図る専門家。生産者・農産物ブランディング、食事業者に対する健康食材コーディネートやレシピ開発、加工品開発支援、講演セミナー等を行っている。 健康的でポジティブなライフスタイルを実践するために始めたランニングは1年で10km走れるようになり、2018年3月には名古屋でのハーフマラソンに初挑戦の予定。 6次産業化プランナー、野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター  



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