直販農家のコトづくりと地域活性化|直販農家のためのFun×Fanマーケティング講座⑪

 皆様、こんにちは。大平恭子です。 


  「直販農家のためのFun × Fan マーケティング講座」は、今までの実践や講演セミナー内容、指導アドバイス事例を、大平流に連載ブログ形式でお届けするものです。(今までの内容はこちらから。)本編の11回目のテーマは、「直販農家のコトづくりと地域活性化」です。 


 Vol.9でのSNSや、Vol.10で取り上げた食べ方・レシピ提案をコミュニケーションの手段ととらえ、直販農家だからこその出来事や体験・経験を盛り込み「伝え、共感を得る」ことが、認知度向上や販売機会の増大につながるというお話をしました。今回は、この「体験・経験」を顧客価値とし、それをもとにした新規事業化、6次産業化のあり方についてお伝えしようと思います。


◆直販農家の経営資源の考え方


 経営をしていく上で役に立つ多様な要素や能力を「経営資源」といい、一般的には「ヒト、カネ、モノ」、そして「情報」がそれにあたります。そしてこれらを適切に有効活用することによって利益を生み出し、経営における成長に結び付けていきます。 


 ここで「何を経営資源とするか」は熟慮を重ねたいところ。例えば、農業は地域の景観を守り、生き物との共生など有機的な環境を維持する機能を持ち合わせています。農家がふだん感じている景観の美しさや農作物の成り立ち、昔から伝わる農村の生活文化を伝える家屋や道具も「それを使って何をするか(=コトづくり)」の観点に立つと、「経営資源」となります。 



 ひとつ具体的な事例でお伝えしましょう。

  

 岩手県盛岡市黒川地区のりんご畑の上に立つ、mi cafe(ミ・カフェ)は3代続くりんご農家「松本りんご園」が2007年にオープンさせたもの。あたりを見渡せるロケーションや自農園及び近隣農家の果実を使ったメニューで、遠方からのリピート客も絶えない人気のカフェです。

 カフェの立ち上げのきっかけは、オーナーである松本直子さんの「このりんご畑の上にカフェがあったらどんなに素敵だろうなぁ。皆さんにもこのりんご畑のある四季折々の風景を楽しんでいただきたいなぁ」という思いから。当時は、農業地を他の用途で開発・使用することに関して前例がなく、この思いの実現には多大なる時間を要しましたが、地道に手続きを積み重ね、現在に至っています。


 特筆すべきは、経営の多角化や雇用の創出はもちろんのこと、「地域内連携によるコトづくり」を積極的に行っているということ。りんごの花の時期には「りんご畑de コンサート」と題して、近隣の学校や企業、音楽団体等と連携してチャリティイベントを継続的に実施し、「りんご畑で楽しむ時間」そして「りんごの生産現場を知り、りんごの花と触れ合う機会」を作り出しています。


 これらは、畑が「食べ物を生産する場」を超えて「人が交流し楽しむ場」として活用されており、その接点活動がまた、農業に対する興味や地域住民との相互理解につながっています。さらには、畑とカフェを舞台としたイベント自体が「集客装置」となり、地域と一体化した季節の風物詩として交流の輪を広げているという点でも好事例と言えます。 




◆直販農家から派生する「コトづくり」は地域活性の優良コンテンツ   


 皆様の中には、自分が栽培したもので「カフェを開きたい」、「摘み取り体験農園を開設したい」、「古民家である家屋を活用して、民泊事業をしたい」等、いろいろと夢を描いていらっしゃる方も多いと思います。これらに共通するのは、農家ならではの「伝える場」を作り出すということに他なりません。


  Vol.1では、『直販農家は、「販売志向」ではなく、「顧客志向」で』とお話ししましたが、これらの事は、対象となる顧客においては、「未知なる体験の場づくり」となり、地方創生やインバウンドといった潮流の中で、地域の魅力となり、地域を伝える、さらには地域に人を呼び込む優良なコンテンツとなりうるのです。  


 ただ、事業化となれば、それらは一過性のものではなく、規模は小さくても、持続性のあるもの、収益性をあるものでなければなりません。そういう意味では、カフェ=飲食業、体験農園や民泊=観光業ととらえ、業界研究を行い、その分野で品質を確保するために必要なことは何かについて探求することが肝要です。また、事業計画においては、「思い」だけにとらわれず、運営における業務プロセスにも着目し、関わる人員の能力や役割分担等の明確にする必要もあろうかと思います。

 そして、限りある経営資源においては、他の人の「知恵」や「技術ノウハウ」も取り込んでいくことが肝要。自分の利益や損得だけにこだわらず、お互いの得意技を持ち寄り、連携の中でWin-Winの関係性を築いていくこと、そのための仲間づくりもまた、皆様の思いの実現を後押ししてくれることでしょう。 


  今回お伝えしたことが、皆様の気づきや具体的な行動に繋がりましたら幸いです。  




【プロフィール】 ブランドストーリー 代表 大平恭子 

食農連携の分野で「売り方・食べ方で人と地域を活性」をミッションに、付加価値化と魅力増大を図る専門家。生産者・農産物ブランディング、食事業者に対する健康食材コーディネートやレシピ開発、加工品開発支援、講演セミナー等を行っている。 

 6次産業化プランナー、野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター



 





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