ポケットマルシェ代表・高橋が、全国47都道府県をまわり日本の一次産業の今後を考える座談会を開催する「平成の百姓一揆」高橋博之 47キャラバン。
2018年9月2日に行われた和歌山県のキャラバンでは、松坂農園の松坂さん、藏光農園の藏光さんをトークセッションのゲストに迎え、大盛り上がり。お二人の取り組む直販の実態やその裏にある戦略など、ぶっちゃけトークも続出!今回は、気になるその内容を抜粋してお届けします。
▼メルカリ・ポケマル・楽天。全てを経験した松坂さんが明かす、ネット直販のリアル。
高橋:会の冒頭で「個人販売で、ちゃんと食べ物の裏側の情報を伝えながらお客さんに売っていくことが大事なんだ」という話をさせていただきましたが、「自分で作ってもいないくせに簡単に言うよな」と思っている方もいるかもしれません。そこでぜひ直販を実際にやっている二人から直販の難しさと可能性について聞いてみたいです。
(右)高橋博之:株式会社ポケットマルシェ・代表取締役CEO。『東北食べる通信』編集長/日本食べる通信リーグ代表。
(中央)松坂進也さん:まつさか農園オーナー。大学卒業後、京都で数年間営業職として働いていたが、祖父の危篤の知らせを受けて和歌山県有田郡にUターン。自分なりの工夫も加えながら、祖父のみかんを受け継いでいる。2年前からメルカリでの販売を開始し、1週間に200箱ものみかんを出荷してきた。
松坂さん:僕は2年前からメルカリでみかんを販売しているのですが、だいたい事務作業を週に3時間ちょっとくらい、出荷時間でプラス30分くらいの時間を使っています。直販をやっていて思ったのは、お客さんって本当に貴重やしありがたいんですけど、時にうっとうしいんですよね。(笑)
お客さんからしたら農家さんがめっちゃ丁寧にやってくれるのが理想だと思うのですが、僕のところは担当部署とかもなく全部自分でやらないといけないので、そんなに手間をかけていては収入にならないんですよ。直販ってお金もあがるしやりがいもあるしお客さんもリピートしてくれていいことも多いですけど、やっぱり手間が半端なくって。
高橋:そういう手間がかかることを効率的にやっていくための改善を重ねてきていると思うのですが、その改善の一つの例、みたいなのを聞けますか?
松坂さん:はい。例えばメルカリのお客さんの80%くらいから聞かれるのが、「いつ届きますか?」なんですよね。……いや、僕だって気になります。でも訳あり品のみかんがいつ収穫できるかなんてわからない。なのに「いつ届く」って聞かれるの、腹立ちません?(笑)
会場:(笑)
松坂さん:なので、「金曜日に出して週末には到着します」という文章をあらかじめ書いておいてコピペでお客さんに送ったり、商品の説明に書くようにしたんです。そうすることで、1週間に200箱の注文×8割×30秒の作業時間が削減できました。そういった改善を10個も20個も積み重ねていくうちに、事務作業を1週間あたり3時間にまで削減できたんです。
そんな感じで「何か楽にできないかなー」と思ってやるのが大事だと思います。残りの3時間って言うのは伝票に住所を書く作業ですが、ポケマルだと伝票をすでに記入された状態で自動的に持ってきてくれるのでめっちゃ楽です。おすすめです。(笑)
高橋:松坂さんはメルカリ・ポケマル・楽天と出品していろいろ研究していたんですよね。
松坂さん:はい、研究していました。お金もかかりました、楽天は特に。(笑)
というのも、楽天は100万円バーンと広告を打って、102万円返ってくる。その2万円をちょっとずつ積み上げていく、っていう戦いです。それは大手のやることだと思いましたね。
高橋:そこで感じたメルカリや楽天とポケマルの違いってどんなことがありましたか?
松坂さん:お客さんはネットで買い物するとき、どうやって調べるかというとまずレビューを見ますよね。で、だいたいレビューの星が1つとか2つのコメントを探します。この業者ダメなやつじゃないか、と。お客さんのマインドが自動的に悪いところばかり探す減点方式になってるんです。
でも、ポケマルの場合は加点方式なんです。お客さんが見るのは低評価のレビューではなく、コミュニティページでお客さんと交流している農家さんはどれだろう、とか商品の詳細に文字がたくさん書いてあって想いが詰まっていそうなのはどれか、とかいうところです。レビューの代わりにコミュニティの投稿を見ていますよね。そして、よっぽどクレーム対策を怠ったり変なことをしない限りは、ポケマルは客層がとてもいいので加点がなされていくんです。
松坂さんのコミュニティページ上の投稿
▼僕らはみかんのケアをするために生まれてきたわけじゃない。自分たちの生活のために農業をやっているんだ。
やはり気になる、直販時の価格の決め方。トマト農家で直販を始めようと考えている参加者から、質問がありました。
参加者:価格設定の仕方について、悩んでいます。産直所に行って価格を見てみるとだいぶ安くて、でもそれ以上高くしたら売れないんじゃないかと思っているのですが。
松坂さん:僕は、価格は再生産価格で設定するようにしています。つまり、この値段だったら来年も同じ作物生産できる価格です。これは、人件費とか入れた価格で県が出している数字を参考にしています。
安いから売れる、というのは嘘です。例えばメルカリではあえて相場価格より上の値段で売ります。そうしないと安い値段に釣られた「お付き合いしたくない人」がたくさん来るんですよ。(笑)逆にちょっと高めの値段にしておくことで、お客さんの側も「特別なものを買っている」というマインドになってくれます。
工業的な「食」(編集部補足:エネルギー補給をするためだけの食事)ではなく「作ってくれてありがとう」「買ってくれてありがとう」みたいなコミュニケーションの余地が生まれてくるんです。
安い値段で買いに来る人たちは、例えば1,000円以下みたいな値段で絞り込み検索をしているんです。お客さんのことはもちろん大好きなんですけど、でもちょっと引いて見るタイミングも大事だなと思っています。やっぱり「お付き合いしたくない人」はお客さんじゃないんです。その人たちを寄せ付けない工夫も必要だなと思っています。
高橋:戦後日本は貧困で、皆が腹をすかせていたので安く誰もがお腹いっぱいになれる世の中を目指してスーパーが発展してきました。あるときお腹いっぱいに食べられる時代が来たにも関わらず、スーパーはさらに安売り合戦に走ってモンスターみたいなお客さんを増やしてしまっている。
僕はお客様は神様じゃないと思っていて、やっぱり生産の背景も知らずに買い叩いてくるような消費者は相手にしないことだと思っています。やはりちょっと強気で、子供を育てて人並みに生活していける値段をちゃんと設定していかないといけないですよね。
松坂さん:僕はみかん農家ですけど、みかんのケアをするために生まれてきたわけでないですから。農業は自分の生活のための仕事としてやっています。そして仕事っていうのは幸せになれるためにやっていて、だからこそ幸せになれる価格とか、幸せになれるスタイルでやるべきですよね。
▼「畑でただ頑張っていても、お客さんには伝わらない。」自ら都市とつながり、伝えていく時代。
高橋:地方の基幹産業である農業・漁業をなんとか立て直していけないという議論が方々でされているんですが、最前線で実際に活動しているお二人に一次産業で食べていくことの可能性について聞いてみたいです。
藏光俊輔さん:藏光農園を家族4人で経営。大学卒業後、東京で着物の販売を行う会社に勤務し、脱サラ・Uターンし就農。現在は和歌山県日高郡にて温州みかん、晩柑類、南高梅、カーネーションを栽培。「知っていることが自慢になる農園」を目指して、情報発信も積極的に行う。
藏光さん:僕はもともと田舎に帰りたいという気持ちはあったんですが、東京で働いていたときは、そこでお金を稼いで遊びに行くのも楽しかったので、なかなか踏ん切りがつかなかったんです。ただある時ふと思いついたのですが、都会のおしゃれな感じの人たちって平日は都会で働いて、週末は田舎にサーフィンをしに行ったり都市農園に行って癒しを求めたりなんかしますよね。
僕はその逆もあるんじゃないかとある時ふっと気づいたんです。つまり「平日は田舎で働き、週末は都会に遊びに行く。」スタイルがあってもいいんじゃないかと。田舎に帰ってきても、都会と断絶するわけじゃないと気付いてふっきれました。
高橋:僕は『都市と地方をかき混ぜる』という本を書いたのですが、そこで言いたかったことはまさにそれです。日本はこっちが豊かだとかこっちはダメだとか二項対立の議論を日本は続けて来たのですが、どっちにもいいところも課題もあるし、結局はどこに暮らすかよりもどう生きるか、ということですよね。
藏光さん:それから直販をするということは直接消費者と触れ合うということだから、そういう場所(都会)に行かないとわからないことも多いと思います。今は畑でただ頑張っていても、その頑張りはお客さんに伝わらない時代になっているんです。だからこそ直販をやりたい人は都会に行ったり、違う人種の人たちに会う、とかは積極的にやっていったほうがいいと思います。
農業の可能性はまだまだ大きいと思っています。工業的な食をさせられてしまっている人もいますが、皆それはよくないとわかっている。「こんなうまい食べ物があるんだ」ということをきちんと発信してそれがちゃんと相手に届ければ、「そっちのほうがいいよね」と思ってくれる人もまだ結構な数いると思っています。
インターネットが発達したことで、直接お客さんとコミュニケーションして、お客さんと繋がることができる。これはうちのような「小さな」農家にとっては非常に良いことだと思っています。それがめんどくさくなることもあるんですけどね。
ただ、これまで僕たち農家は「伝える」こと「コミュニケーションをとる」こと、というめんどくさい部分をどんどんしなくなって、誰かにそのめんどくさいことを任せてきてしまったんですよね。そのために僕らも残った部分だけ、つまり「もの」を作ってぽいっと出すだけみたいなことになってしまった、だからこそ規模でかなわない業者に買い叩かれてきた。そういう残念な構造になっていたのが、インターネットの発達によって結構崩れてきている。しかもインターネットを使えば個々の農家が行うことができるのでこれからはいい時代になりそうだなと思って農業をやっています。
プロの農家が切磋琢磨しながら作った農産物は、とびっきりまずいものつくらなければお客様にすぐに分かるほどの味の差はでないです。あとは自分なりに何を考えながらこの農産物を作っているのかをいかにお客さんに伝えられるかだと思っています。さっきも言いましたが、畑で頑張っています、って言っても伝わらないんですよね。
「最後は人」と高橋さんもおっしゃっていたんですが、愛情いっぱいやってましたって言っても「真面目でいい人やな」という付加価値しか商品にはつけることはできていません。それ以外のところで作ったものにどう付加価値をつけていくかっていうことを考えて、畑以外のところで発信するときや話すときに意識することが大事だと思っています。
松坂さん:直販ってめちゃくちゃシンプルに言うとコミュニケーションなんですよね、売ることじゃなくて。さっきから僕らポケマルの話をしてますけど、もしも僕がいきなり街で歩いている人に「ポケマルがさー」と話しかけたらおかしいひとじゃないですか。(笑)
直販するんやったら、自分も消費者の立場になってみて、相手の興味のある事や楽しめる事をやるということです。そういう意味でもコミュニケーションってすごい大事やなと思っています。
高橋:幸福を研究している知り合いが最近の論文で、友達の数が幸福に比例するっていう研究結果を出していました。僕はお金とかも大事だとは思っているんですが、幸せのもう一つの尺度として、これからどれだけのネットワーク、友達を持っているのかというのが強い時代になってきていると思うんですよ。そして、農家ほど直販で友達を増やせる仕事はないと思っています。それは、一回で終わらないからです。気に入ってもらえたら関係が続くからです。
4年ほど前、島根県の棚田で自然栽培でお米を作っているおじいちゃんに会いました。そのおじいちゃんが言うんです。「俺は100人の固定客がいる。東京にも大阪にもいるし、九州にも台湾にもいるんだ」と。「毎年電話をくれるし遊びにも来てくれる。だからわざわざ東京に行かなくても、ここが俺の東京で、俺の世界は広いんだ」って言い放ったんですよ、このおじいちゃんは。僕はかっこいいなと思いました。
このおじいちゃんの世界って広いんですよ。食べ物のことを通じて、いろんな職業、いろんな土地できらきら活躍している人たちと出会って、つながっている。だから世界は狭くないんですよ。
僕がこれまでいた岩手だと人間関係は狭いし、農業をしているとものすごく狭い世界で終わってしまうというような暗さ、立ちおくれ感。「これじゃ終わってしまう。やっぱり都会に出ないといけない」みたいな文脈がまだあります。
でもこのおじいちゃんみたいに直販をしっかりやれていれば、まったく世界は変わると思うんですよね。田舎にいるから世界と繋がれないんじゃなくて、田舎にいながら世界につながっていく。その可能性を開く一つの方法が直販なんじゃないかなと思っています。
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