「農家って下に見られているんですよね。」
このように語りかけてきたのは石川県で農業を営む、たけもと農場の竹本彰吾さん。
そんな竹本さんは2018年6月、全国農業青年クラブ(4Hクラブ)連絡協議会(*1)の29年度総会にて会長に就任しました。竹本さんが掲げる目標は「農業をなりたい職業No.1に」。今回はその竹本さんに4Hクラブにかけるホンネ、そして今後の取組みについてお話をお伺いしました。
▼就農のきっかけは父親から見せられた”大量の札束”
ーーまずはじめに、そもそもの就農のきっかけについて教えてください。
私の父も祖父も、代々米農家だったんです。ですから、幼い頃からいずれ自分が農業を継ぐのだろうとは思っていました。ただ、私を就農に至らせた大きな転機は私が高校3年生の時でした……。
ーー……転機。具体的にどのような出来事だったのですか?
父親から急に部屋に呼び出されたのですが、部屋に入るなり、札束を見せられました(笑)。そして父親はこう言ったんです。
「農家は一般的に儲からないと言われているが、貰うべきものはちゃんと貰ってるんだ」と(笑)。父親はこう続けました。
「農家は田んぼに行って作業するだけが全てではない。農薬や肥料を販売してくれる農協、農地を貸してくれる地主さん、そして同じ志を持った農家の仲間、そして何より竹本農場を支えてくれている1,000名を超えるお客さんがいらっしゃる。
そして彼ら全員が竹本農場に期待しているので、その期待に応えることが、お前のやるべきことなんだ」と。
最初札束を見せられた時はびっくりしたのですが、農家はお金を稼ぐだけではなく、どれだけ社会に応えることができるかが大切なのだという点に感銘を受け、「農業を継ごう」と決意したのです。
その後私は高校、そして大学を卒業後、2005年に父親のもとで就農をしました。
ーーなんと。そんな経験があったのですね。就農されてから就農前のイメージと異なることはありましたか?
はい。いざ就農して預金通帳を開いたんですが、「思ったより儲かってないやん」と思いました(笑)。
一方で、父親は他の農家と比べても積極的に直販を行なっていて、ちゃんとお客さんとつながっており、そこに多大な可能性は感じました。
そんなこともあり、就農直後から「もっとお客さんとの関係を大事にしたい」と思い、これまで父親が手をつけていなかったネット販売も始めました。農閑期は家にこもってパソコンばかり触っていましたね。
父親から「農家はそんなに暇ではないぞ」と言われたこともありましたが……。
ーー4Hクラブに出会ったきっかけについても教えてください。
地元の普及員さんから「若い農家の集まりがあるから参加する?」といわれ参加したのがきっかけです。どんな会なのかは正直知りませんでした。
ただ、地元の保育園の園児にサツマイモ掘り体験をしてもらったり、4Hクラブの仲間で青空市に参加したりという活動を見て、同世代で集まるのはいいなと思い、継続的に参加することに決めました。実は参加当初は参加率は悪かったんですが……(笑)。
ーー今や4H会長を務める竹本さんも当時の参加率は悪かったのですね(笑)。そこからどのように4Hクラブで活動されたのですか?
地区4Hで活動していたのですが、私が30才くらいのとき、当時石川県4Hクラブの会長をしていた宮野義隆さんという方に「石川県の4Hクラブの理事にならないか」と言われたんです。
宮野さんは全国的にも有名な方でしたので、正直「YES」か「はい」しかないような状況で(笑)、「はい」と答えその後2年ほど務めました。そしてその翌年には石川県4Hクラブの会長を務めるに至ったのです。
石川県4Hの会長は1年間勤めました。慣例では会長を降りると県の顧問として活動することになるのですが、ちょうどその時、全国農業青年クラブ連絡協議会(全協)の執行部から「全協の副会長をやってみないか」と言われたんです。
これまで現場から全協という組織をみてきて、「変えてみたい」と思うこともあり、そのお誘いを受けることにしました。
▼新しいことは必要ない。リアルの発信こそが「農業をなりたい職業No.1に」への近道。
ーー全協の副会長になって変えてみたいこと、具体的にどのようなことだったんですか?
一言で言うと、情報の透明化。全協で議論していることを各都道府県の会員の方に見えるようにしたかったんです。
各県の役員と全教の執行部との話し合いの機会は年3回しかないんですが、これまでは執行部が提示した議題について話すだけだったんですが、議題がそこにあがるまでのプロセスも同じくらい大事だと思い、なぜその議題があがったのかを透明化することにしたのです。
具体的には、4Hクラブ会員専用のFacebookグループを作り、そのグループで議論の過程を公開することで、情報の透明化を図りました。
そうして活動すること1年、2018年の6月の総会にて全協の会長に任命されました。
これからは「農業をなりたい職業No.1に」を目標に掲げ活動していきたいと思っています。
ーー「農業をなりたい職業No.1に」 具体的にはどのようにすれば達成できるのでしょうか?
今みなさんが農家として行なっていることを誇りを持って対外的に発信していく。これが一番大事だと思っています。
近年、巷ではスマート農業や大規模農業化などのワードがトピックにあげられています。それらを活用し効率的な農業を目指していくことも大事でしょう。ただ、そこは本質的な部分ではないと思っています。
農業の魅力は、農産物が育っていくプロセスを自分で最初から最後までみれるところだと思います。生命を自らの手で育てることが農業。これほど素晴らしいことを行える職業は農家以外ないと本気で思っています。このリアルな情報を農家さんには発信していただきたいと思っているのです。
大学などの就職説明会で、農家という選択肢はほぼありません。農家って下に見られているんですよね。「稼げない」とか「後継者が減っている」とかネガティブなことがニュースで取り上げられがちです。それをみた農家はどこかで悲壮感を抱えているように見えるんです。確かに稼げていない農家、やりがいを感じていない農家もいるとは思いますが、みんながみんなそうではない。
なのでまずは、はったりでもいいので悲壮感を持たずに「これが農業のリアルだ!」を発信することが大事なんです。
そうした土台づくりのためにも、引き続き4Hクラブ内部での情報の透明化を行なっていきたいですね。Facebookでグループを新しく作るだけではなく、会員内でさらに透明性のある議論を行うためにweb会議システムであるZoomを使って定例会を開催するなどの試みもはじめています。
これまで役員は全国にいるために直接集まる機会を設けることが難しかったのですが、オンラインの仕組みを取り入れることでその問題もなくなりました。
ーー有難うございました。最後に、この記事をご覧になられている農家のみなさんに伝えたいことはありますか?
「全国の会長だからこんな楽観的なことを言えるんだ」と思われる方もいらっしゃると思います。ただ、私も現場に戻ると一農業者。みなさんと一緒で朝から晩まで農作業をしています。
多くの方々と会話していく中で農業の素晴らしさに改めて気づいたのです。だから、この記事の内容をぜひ他人事にせず、自分事化していただき、ぜひ「農業をなりたい職業No.1に」を目指してご一緒できればと思っています。
(*1)4Hクラブ(農業青年クラブ)は将来の日本の農業を支える20~30代前半の若い農業者によって組織され、農業経営をしていくうえでの身近な課題の解決方法を検討したり、より良い技術を検討するためのプロジェクト活動を中心に、消費者や他クラブとの交流、地域ボランティア活動を行っている団体。
同クラブは、現在、日本全国に約850クラブ、約1万3千人のクラブ員が所属している。(参考サイト)
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